比喩の横滑り

ボリス・ヴィアンについて語った文章ですごくいいのを見つけたのでメモ。
http://www.esquire.co.jp/web/music/2006/12/33_1.html

ヴィアンの発想というか文章の特徴っていうのは、鉱物と植物と動物とか、光と水と蒸気とか、乾いたものとぬるぬるしたもの、固いものと柔らかいもの、人工物と自然物、ここでは楽譜っていう「書かれたもの」とカクテルっていう「飲み物」とですが、そういった一見くっつかないものが、文章の論理の中で近くにくると、それが現実的に入り組みあって、新しいものが生まれてしまう。言葉の論理の運動(その一番強力なものが駄洒落です)を止めないように、「カクテル」 +「ピアノ」ってものがあると、それが「カクテルを作るピアノ」にそのまま横滑りして現実に機能し始める。そんな感じで、比喩じゃなく、デートをすれば薔薇色の雲が出てきて実際に彼らの身体を包むし、胸に蓮の花が咲いてしまう。鉱物と植物が容易に互いにトランスポーズするように出来ていて、で、その変化の描写が実際の運動として描かれ、しかもそれがすごく生々しいってとこが素晴らしいと思います。日光が真鍮にあたって球に変わって廊下を転がっていき、ハツカネズミがそれで遊んでる。っていうことが現実である世界です。

大谷能生さんのレクチャーを文字化したもののようです。引用はヴィアンの文章の魅力が正確に説明されてるくだり。ほかにはヴィアンとデューク・エリントンが「隅から隅まで想像ででっちあげたもの」であるという魅力で通じ合うという指摘も、それを読んで頭の中に流れてくるデューク・エリントンの音楽が、ほぼ私の頭ででっちあげられたものであるにも関わらず、あるいは、であるからこそ尚ぐッとくるものがありました。


あと、ヴィアンのシャンソンが聞けるサイト。
http://www.borisvian.fr/sommaire.php?to=chansons
Le déserteur(脱走兵)という歌が有名らしいんですが素晴らしくよかった。これ大谷さんのページに訳詩が引用されてるので(http://www.esquire.co.jp/web/music/2006/11/23_1.htmlカンニング用に。