『NHKにようこそ!』 滝本竜彦

非常におおざっぱにいうと、無条件に好感のもてるタイプの小説ということになる。その意味では私はこういうのが“景色”として好きなのであって、個別の作品としてどうこうという感想はあまりない。細心の注意を払って読む必要のない、きっと今ここを読みとばしても、どこかでまた似たような大体こんな感じのものを、かわりに読むこともあるだろうと思えるその感じ。それがこの本じゃなくても、別の似たような本で、またこの作者じゃなくても、別のよく似た書き手の書いたもので。今読みとばした部分を、いつかどこかで穴埋めしてくれるものが多分あるだろう。なんとなくそう高をくくったまま楽に読める、と、それは批判でも何でもなくかなりの好感をもってそう思えるわけである。
どうやって描いたのか想像もできない絵、というのがある。素人目にはネジや接着の痕が見つからない、表面に隙のない勝手に開けられない電化製品みたいな絵。小説にもそういうのはあって、筆の痕とか下書きの鉛筆の線みたいなものが完全に消されている小説、そういう小説が私は好きではない。
チラシのオモテの文字(キャベツの値段とか)が物語に透けて見えるくらいのほうがいい。ディックが好きなのはそういう楽屋と舞台の区別が杜撰なところで、この作品もごく大雑把に分けると同タイプなので、だから景色としてこういうのはいいなあと読んでいて思う。
景色ではなく、この作品として独自にいいところをひとつ挙げるとすれば、薬物の服用による時間感覚の狂いを回想シーン挿入の口実に使ってるところがあって、あそこはちょっとディック的なシークエンスだった。