幻想とストーカー

長野まゆみ『よろづ春夏冬中』読了。幻想を書く文章としてこの本は理想的だと思った。平易ですごく読みやすいんだけど的確にツボを押えるというか、あの世的なものへの分岐をちらつかせつつ、あくまでこっち側の道だけをぎりぎりで歩んでみせる。そのあたりのコントロールが絶妙。ものすごくうまい。
そそるアイテム選択のセンスも抜群で、しかも放りっぱなしじゃなく、景色を歪ませながらきちんと結末に着地を決めていく。
BL的な展開への唐突なご都合主義も、この繊細な文章に接続されると一種のユーモアを醸しだす場合がある。
ただ、物語にどうしても気持ちの悪さを感じずにおれないのは、もちろんBLだからではない。ストーカー的な行動をとる人物につきまとわれた主人公が、やがて相手を受け入れるという話が多いのだけど、それがすごく抵抗を覚えるのだ。そういう展開が別におぞましい事として呈示されてるわけじゃないらしいところに、耐え難いおぞましさを感じてしまう。
高橋洋が脚本を書いた「インフェルノ 蹂躙」という映画に、十年間ストーカーされ続けた女が諦めてストーカーと結婚するという設定があったけど、それは当然おぞましい設定としてあったわけだ。つまりストーカー目線ではなかった。
この短編集は主人公はストーカーではないけど、ストーカー目線でストーカーの脳内ファンタジーとして書かれているようなところがあり、そこは生理的に全然受け付けられない。
自分の中でそのように評価がまっ二つに裂けるところが面白かった。