とかげ

 階段の下に知らぬまに彼が部屋を築いている。彼とは若い女である。女とはその国で無作法な物乞いを意味する動詞である。したがって今読まれている文章は、動詞が誤って名詞に訳された無残なものだが、描かれている彼にそれを知るてだてはない。部屋は出入口を彼の頭のなかに持つのだから、我が家はただ階段の下の使われていない狭い空間を盗まれたにすぎない。私はもはや一室提供しているくらいの大らかな気分である。彼はそこで行き交う足音の、見たことのない主たちの姿を日がな思い描いてばかりいる。私は悪い方の足を軽く引きずるために、片足にとかげをしがみつかせた者として彼に想像されている。とかげの顔は赤くて醜い。複雑な丘陵地を横ぎる高速道路を思わせる口が、薄くひらくと、倒れた墓石のように透き間にのぞく暗い舌。