短歌日記

牛小舎にいま幻の会議消え青年ら消え陽の炎ゆる藁  寺山修司

私の知っている短歌の中で一番好きな短歌。
短歌という箱庭空間を劇場と化し、そこに「幻の会議」を出現させたとたんに消し去って、あとには「陽の炎ゆる藁」だけを残すあざやかで夢のような寸劇(「夢」は夜に見る夢のほう)。あるいは密閉された箱の中から人体を消失させるマジック、を見せられたような感じ。
寺山の歌集『田園に死す』は一首一首の中にこうした箱庭劇場が納められ、読むたびに自動的に動き出す機械仕掛けの人形のように、永久に悪夢のような寸劇をくり返している。
57577の音律は、そこでは人形を(そして戸板返しのような舞台装置のからくりを)動かすための動力として利用される。

短歌は使用できる字数としてはとても少ないが、ただひとかたまりの31音ではなく、五つの句に分かれることでミニチュアのストーリーが展開(五コマまんが、または五幕の劇のように)されるようにできている。さらに上句と下句で前半と後半にも分けられる。読者は拡大レンズを覗き込むような姿勢で、この小さな劇場での人や景色、あるいは物や心理などの動きを眺める。