短歌日記(誘拐された言葉)

箱庭は閉じている。閉じていて、この世の現実とは隔絶しているがゆえに、現実ではないどこかべつの世界とつながってしまう。別世界の覗く窓になる。

暗闇のわれに家系を問ふなかれ漬物樽の中の亡霊  寺山修司

ここにある「暗闇」も「家系」も「漬物樽」も「亡霊」も、すべて現実にありふれたものであるにもかかわらず、一首の箱庭空間にレイアウトされることでわれわれの現実から姿を消す。誘拐された子供の声を電話で聞かされるように、われわれはこれら遠くへ行ってしまった言葉たちを短歌の窓から覗き見ている。