シールの話

シールを貼り続けていると私はやや恍惚となる。台紙から剥がし取る快楽。二度と剥がせないものにそれを貼り付ける快楽。この作業はつねに二段階であり、一方通行である(シール剥がし液の存在になど目もくれるな)。私はシールで小説を書くべきかも知れない。あらゆる単語のシールをあらゆる数ずつ用意すること。おそらくシール小説史上に残る名作が書きあがることだろう。書きあがったそれはふたたびシール上に印刷される。そして箪笥の横やテレビや歩道橋の手すりや手帳の余白や電柱にばらばらに貼り散らかされ、誰にも物語を読むことができない。それらを通読する視点を想像したとき、屋上に屋が重ねられ、新しい高さを歩き回る足音が聞こえだす。ここからはもうシールの話ではない。