首にまつわらない妙な話

きのうから首が痛かった。くわしくいえば背中の肩甲骨の下あたりから首のうしろにかけてが痛い。寝違えたのかもしれないが、朝起きた時はあまり痛みを意識しなかった。夕方買い物に出て帰ってきてから痛みが強くなった気がする。買い物袋をいくつか提げて帰ったが大して重かったわけではない。


夜にかけて痛みはさらに強くなっていった。こたつで寝転がって本を読んでいた。
すると天井で物音がする。二階の住人は最近引っ越してクリーニングも入ったばかりだからたしかに空室のはずである。
耳をすませているともう一度物音が聞こえたような気がした。二度目のははっきりしないが、最初の音は人が床を踏みしめるような音でまちがいなく頭上から聞こえてきたのだ。
隣室からではないし、そもそもこの建物は隣室の音は水回りのそれもかすかな音以外はまったく聞こえない。
知らないあいだにもう二階には住人が入っているのだろうか。
外から窓を見上げてみようかと思うが、なにしろ首は痛いし寒いので億劫でやめた。
業者か不動産屋がたまたま部屋を見に来ているだけかもしれない。
外階段をのぼる足音や、アパート前に停まる車の音は聞こえなかったけれど。
時計を見ると午前一時半だった。


寝たまま天井をぼんやり見ていると、短いひものような物が視界に入ってくる。
細長くて、表面がぬらぬらしている。色は黒い。先端がふたつに分かれてツノのように見える。
いやだなあ、落として外に掃き出すか? でも床は散らかってるし、うまく掃けなかったらよけい悲惨なことになる。ほっといたらいなくならないかな。
そう思っているうちに、ひも生物は天井をゆっくりと這って移動。移動先にはかれの仲間が何本も、天井から壁にかけて貼りついている。
生物たちは互いに寄り添って合体し始めた。数が減り、少しずつ大きくなってゆく黒いひも。


というところで目がさめた。飲みかけのコーラの缶と天井が目に入る。
ひも生物のあたりからは夢だったらしい。
布団を敷いて寝直すとまた微妙に悪夢を見たのだが、内容は覚えていない。
朝起きると首の痛みがさらにひどくなっており、寝そべった状態ではほとんど身動き取れない。
なんとか起き上がって使用期限が五年前のメンフラを背中に貼りまくった。
今もじっとしていれば何でもないが、ちょっとした身動きで痛みがはしるのでつらい。


さっき外に出て見上げてみたら、二階の部屋は玄関の郵便受けがテープでふさがれたままだった。