double

 図書館の二階が病院の一階だった。図書館を訪れた人は目当ての本を片手に閲覧室へ階段をのぼっていく。二階にある閲覧室は病院のロビーでもあるのでページをめくっている人たちは順番に名前を呼ばれる。
 診察室ではだけた胸に聴診器を当てられながら君は、この本は意外と詰まらないみたい、としだいに気づいたので医者にそのことを話す。医者は胸をかくすように君に云いながら、今すぐ入院する必要のあることをさりげなく告げた。
 だったらもっとましな本を選ぶべきだった、と君は後悔するが、ここより上の入院病棟はもはや図書館ではないのだ(図書館は二階建てなのだから)。退院の日まで、あるいは退院の永久に不可能になる日まで、君はその詰まらない本ばかり読み続けることになるだろう。とっくに返却期限の切れた本を。

出口の変更

 夢から醒める時にふと、いつもとちがう方向をめざしてみると瞼ではなく冷蔵庫のドアがひらいて目が覚める。
 私から取り出されていく牛乳パックと、私の明かりに照らされた姉のひたいが見えた。

覚醒

 ビルの谷間にキャベツのかけらが挟まっていたので、ここはビル街ではなく私の口の中だと気づいた。ゆうべ歯を磨かずに寝てしまったのだ。

袋小路の店

 追い詰められた袋小路で店を開いた。たちまち評判になって行列ができ上がる。列のはるか最後尾に追っ手が並ぶのが見えた。なので店は他人に譲りそっと裏口から出るとそこは、袋小路。

死人には

 息がないので笛は吹けないが、太鼓だったら骨で叩けるだろうと踏んだところ当てが外れた。死人は皆、脈拍がないために生来のリズム音痴なのである。