2007-01-01から1年間の記事一覧

私は風邪

風邪のいいところは風邪薬が飲めるところだ。私は風邪薬が好きです。 風邪でなくても飲んでいたいほどだけど、高いのでそうは飲めない。たまに風邪引いたときだけ飲めるのが桃の缶詰みたいでいいのだ。桃の缶詰にときめかなくなった今となっては。 今日は本…

池から顔を出したのかと思うと、そうではない。 池に顔が浮かんでいるのだ。 顔のない男はそれを拾おうとして、手のひらが空を掴んでいる。 時々しぶきをあげるのは蛙である。

散歩

道から手の届きそうなところに、黒い環を浮かべている。星でなければ人の頭だろうと思う。数あるクレーターが防犯灯を浴びながら、いっとき、死相のかたちを揃えてみせる。

場所

飛び降りだった。 遺体が運び去られ、人型のチョーク痕が残った。 新旧ふたつの輪郭が、覆いかぶさるように重なる。 スカートの裾から四本の脚が覗くのを見た人がいる。

向日葵

墓地にはひょろ長いひまわりが咲いていた。時々おじぎするように揺れる。おじぎされているのは岸さんちの墓で、このところ毎年誰か亡くなるのだが、きまって暑い盛りである。

神様、うしろうしろ!

「小さな町」フィリップ・K・ディック(ハヤカワ文庫『まだ人間じゃない』所収)。 まだ読んでなかった短編を見つけたので読んだ。 言ってみればディック版「十九歳の地図」。 だけど十九歳でも地図でもなく、「四十三歳のミニチュア」であるところがどうし…

河原

お手玉が落ちていたので拾うと、石ころだった。捨てるとそれはお手玉に見えた。拾うとまた石ころだったので、川に放り込んだ。帰宅すると、寝たきりの祖母の髪が濡れていた。

ほんとなの

拾ったアニメ大音量で 見ながら噛むと苦い薬 ビールで胃に詰めてた ら急にあたし前世で同 じ事したの憶い出した ッて母にメール打つと 即効返事は神様からペ リカン便が来たみたい

木曜の朝

玄関に見覚えのない靴があり、左右の大きさが大人と子供のように違っている。

ある花の名

遺作が公開中の俳優についてこんな噂が流れた。撮影後俳優は海外で客死したのだが、滞在先のホテルが現地語で遺作のタイトルと同じ名前だった。遺体は部屋で発見されたのだ。

×

たった今取り落としたように足もとにある花束。ガードレールに腰かけた女の子のぶらぶらさせてる靴、のかかとから白線にこぼされつつある水、水。だんだん色づいていく。

階段に踏み忘れてきた段がある気がして寝付けなかった。 いつのまにか頂上に立ち、ほかとは色の違うその部分を見おろしている。 みっしりそこにだけ生えた草が揺れている。

会社

窓に人の気配がないので取り壊すのかと思っていた。 十年がたち、ガラスは割れ荒れ果てた室内が覗くけど、今もときどき社名が入れ替わっている。 誰も出ない電話が鳴っている。

墓の隅

隅ノ墓という醜名の相撲取りがドアレンズを外から覗き込んでいる。「八卦よい見えるぞ、あばら骨に隙間あらば郵便受けになるなり、さああ残った」途中から裏声に変っていた。

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首のない胴体がつきまとう私は胴体のない首なので、舌で這って逃げる。

旅行者

味が思い出せぬまま金は払った。案外に安い。 路地から見上げれば屋号に「肘」を意味する名詞のみ辛うじて読める。 砂埃が吹きつけると背広の右袖が旗のようにゆらりと揺れた。

私は花粉症ではないが、この季節になるとくしゃみと鼻水が止まらなくなり、喉がいつもイガイガしている。だが花粉症というわけではない。そう確信するのには理由があるが、今はそれが思い出せないだけだ。毎年同じ症状にみまわれ「今年こそ花粉症かもしれな…

比喩の横滑り

ボリス・ヴィアンについて語った文章ですごくいいのを見つけたのでメモ。 http://www.esquire.co.jp/web/music/2006/12/33_1.html ヴィアンの発想というか文章の特徴っていうのは、鉱物と植物と動物とか、光と水と蒸気とか、乾いたものとぬるぬるしたもの、…

巣窟

蛾の大きいのが窓でばたついていた。入院してる知り合いの顔が浮かんで仕方ない。奥さんに電話すると話中で、今朝見たみじかい夢の報告を義母にしている。夫が妊娠する夢だ。

不案内

終点に着く前にバスは空になった。団地のどん詰まりから先は海で、運転手は右手で目障りな蠅を払う。すると質問が止んだ。 断崖にいたる道筋を、云いさした舌先が乾いている。

ルール

怪談。80字以内。 てのひら怪談加門 七海編 / 福澤 徹三編 / 東 雅夫編

車掌

「終点ですよ」そう声がした。制帽の下の白い顔が目の前にある。歯の隙間からうめきで返事をし墓石から腰を上げる私。無惨に菊を蹴散らした自転車は闇の底に転がっている。

タテ、ヨコ、てのひら

人間の視界は横に広い(目が横に並んでる)ので、横書きの文章は縦書きより多くの文字を同時に目に入れることができるわけです。つまり横書きのほうがずっと効率よく読めるはずなんだけど、なぜか日本語では縦書きが標準なんですね。 そのことと、日本で短詩…

自由行動 これなの、と彼女は彼にそれを差し出した。何これ? と彼。これはね、こうして着るの。たちまち彼女は裸になった。それが二つあるうちの、一つに彼女自身が潜り込む。ほらね、わかるでしょ。ああ、なるほど着ぐるみかい。そう、着ぐるみ。うなずき…

カルヴィーノの小説は読んだことがない

イタロ・カルヴィーノ『カルヴィーノの文学講義』読み中。気になる部分を抜き書き。 言ってみれば、ペンを執って書き始めた瞬間から、言葉が、書かれた言葉が問題になって来るのです。初めは視覚的イメージに釣り合った言葉を探すこと、ついで最初の文体の調…

断章と結末

一日一食にしたらなぜか読書がはかどります。 ゆうべは西崎憲『世界の果ての庭―ショート・ストーリーズ』を読了。 断章形式で、はじめに語られた物語からのちに枝分かれした、複数の物語が入れ替わりに語られていきます(枝分かれという点を除けば四コマ漫画…

金がないから読書

最近一日一食にずっとしてて、たまに二食たべるけど、たいていは一食。お蔭で今月の家賃はなんとか払えそうだし、胃も慣れたのか空腹もあまり感じなくなってて、とくに苦痛でもないんですよね。でも今日図書館行ったら静かな館内でお腹グーグー鳴りまくって…

固有名詞について

ある種の小説はタイトルと登場人物の名前、その所属する組織名、舞台となる地名(それらは実在・架空を問わない)などを定めることで書き始めることができる。それらがいずれも固有名詞であるという事実に意味がないとは思えない(タイトルは小説そのものに…

思いつきのすべて

●デコトラにデコトラの物語を書く、というのはどうか。あるいはデコトラのような本に書かれる、デコトラに書かれた言葉のような物語。 ●蓮實文体で水木しげる的世界を書く。点描だらけの緻密な背景に相当する部分をかつての息の長い文体でまかなう。 ●固有名…

沈滞物件じょうほう 壁に塗りこまれて一ヶ月後に掘り出された人がバイト先に復職してきた。その人(千葉さん)は社員だからいろいろ保証とかもあって別にうらやましくないけど、待遇としては手厚いわけだ。もちろん腐ってて触ると書類が汚れるから自発的に手…