2008-01-01から1年間の記事一覧

透明さについて

三十代の十年間がひどく見通しのいい空白だったという印象を書いたが、この期間は私が学生や職業人としての所属をもたなかった初めての十年間(正確には二十七からの十三年)であり、またそれにともなう経済的困窮と膨大な退屈を埋め合わせるにふさわしい手…

不惑

今日から四十代である。びっくりだ。 三十代の十年はほとんど十年の体をなしてないというか、こんなものが十年なら、その七倍か八倍生きたところで小学生のけつに毛が生える程度のことしか起きないと思う。 それくらい軽くすることに腐心してきたから乗り切…

本の感想は基本書かない

読んだ本。 『極楽商売 聞き書き戦後性相史』下川耿史 『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』川上未映子 『人格障害をめぐる冒険』大泉実成 ● 私は飽きっぽいというか、興味をもった対象のどこに興味があったのかすぐ忘れるのだが、そのくせ腰が重…

鉈と私

昨日締切になったビーケーワン怪談大賞に今年も応募。全投稿作は下記URLで公開中。 http://blog.bk1.jp/kaidan/ 私が出したのは「百合」「バス旅行」「私の未来」の三作。 『てのひら怪談2』十作レビューの過程でかなり明確になってきた、自分の読みたい=…

世界の歪みの肯定

読んだ本。 『SLAVE OF LOVE』みうらじゅん 『ウェブ進化論』梅田望夫 『キリハラキリコ』紺野キリフキ 『波状言論S改』東浩紀編著 『「超」怖い話Μ』平山夢明編著 『文豪怪談傑作選 川端康成集 片腕』東雅夫編 『おぞましい二人』エドワード・ゴーリー 『…

三日に一度くらい来る朝、みたいな。

今度PCの電源切ったら、はたして二度と立ち上がるかどうかは神のみぞ知る。 というかなり末期的な状態にあるということをアリバイ的に書き残してみる。 しかし末期的だなーと思ってからすでに一年たったりしてるわけで、これもまた本当の終りにいたる長い道…

お知らせ

ビーケーワン怪談大賞関係の新しい本が最近二冊出ています。 『てのひら怪談 百怪繚乱篇』 http://www.bk1.jp/product/03003531 http://www.amazon.co.jp/dp/4591103870 『てのひら怪談(文庫版)』 http://www.bk1.jp/product/03005130 http://www.amazon.c…

軽薄な奇想の体力

読んだ本。 『ぼくがぼくであること』山中恒 『東京大学「80年代地下文化論」講義』宮沢章夫 『夢のなか、いまも』宮崎勤 『現代小説の方法』中上健次 『むかでろりん』遠藤徹 『むかでろりん』は今まで読んだ遠藤徹の本でいちばんよかった。収録作のいくつ…

ある偶然

読んだ本。 『嗤う日本の「ナショナリズム」』北田暁大 『はれときどきぶた』矢玉四郎 『月蝕書簡』寺山修司 『萌える日本文学』堀越英美 『はたらくカッパ』逆柱いみり 『〈子ども〉のための哲学』永井均 『事件巡礼 彼らの地獄 我らの砂漠』朝倉喬司・中村…

シンクロしなくなるだろう

最近読んだ本。 『ドアの向こうの秘密』三田村信行 『UFOとポストモダン』木原善彦 『短歌の友人』穂村弘 『小川未明童話集』小川未明 本格的な歌論も当たり前のように読み物として普遍的な面白さに仕上げる穂村弘の“ストーリーテラー”としての体力は、一…

パノラマ島など

最近読んだ本。 『悪役レスラーは笑う』森達也 『おとうさんがいっぱい』三田村信行 『オオカミのゆめ ぼくのゆめ』三田村信行 『パノラマ島綺譚』丸尾末広 『ゲーム的リアリズムの誕生』東浩紀 以前ディック本(『フィリップ・K・ディック・リポート』)に…

地獄という日常

ちょっと前に大岡昇平の「野火」を読んだ。 地獄のような戦場の体験、という決まり文句でも語れるだろう肺病やみの一兵士の体験する死屍累々の世界が描かれるのだけど、その地獄にはまた、地獄の底までこんな瑣末な日常の景色がしつこくつきまとうのかよと思…

奇妙な人のバラエティ

最近読んだ本。 『弁頭屋』遠藤徹 『図説 フロイト―精神の考古学者』鈴木晶 『砂の降る教室』石川美南 『姉飼』遠藤徹 『パーソナリティ障害がわかる本』岡田尊司 『ハートに火をつけて! だれが消す』鈴木いづみ 『天使の病理』坂田三允 『サイコパスという…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その10回目)

ようやく十作目となります今回。開始からだいぶ時間かかってしまいましたが、これで最後です。 一作取り上げるごとに、何か自分の中で怪談や掌編小説について日頃から考えたいこと、について一つずつ考えてみる口実にしようと思っていたのです。が、どうにも…

小説とルール

ジャンル小説はあらかじめ大筋のルールが共有されているところで書かれ、読まれるもの。 非ジャンル小説=純文学の読みにくさはルールがあらかじめ明かされておらず、作品ごとに読者が探しにいかなくてはならないところ(ルールを知らなければどんな小説も読…

恋愛小説ふいんき語り

批評には喋れる言葉で書いてあるのとそうじゃない(書き言葉でしか書けない)のとある。どっちがいい悪いではなく両方あるけど、喋れる言葉で書いてあってなおかついい批評、というのは私みたいに知的股下の足りない、高い敷居になるとまたぎ越せない不自由…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その9回目)

「橋を渡る」峯岸可弥 作者の意識が行き届いた、隅々までコントロールされた文体で書かれていると感じた作品です。 とくに目を惹くのは読点が使われてないことと、冒頭の一文だけが過去形で、残りはすべて現在形で書かれていることの二点ですが、特に後者は…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(番外編)

書くためにする引きこもり、略して書きこもり生活に一旦区切りがついたのでそろそろ残り2作のレビュー再開したいですが、あれは書くのにかなりエネルギー要るのでまだちょっと頭の中の様子見として番外編からやります。 怪談大賞ブログのほうで気になってた…

くどくあれ

私はくどく書くべきだが、回りくどく書くべきではない。後者は何かを隠すためのやり方であり、私は何も隠すものがないからだ。

無意味と作品

私が小説や、小説に似たいろいろのもの(漫画や短歌や実話怪談や批評や映画など)に求めるのはつねに無意味さであると思う。 無意味さというのはただ単に何もないということではない。ただ何もないことに私は無意味さを感じることができない。無意味は必ず意…

フロイト先生はいい先生

「不気味なもの」(岩波書店『フロイト全集17』所収)を読んだ。これはきっと訳文もいいんだと思うけど、最初から日本語で書かれた論文、というか文芸批評を読んでるみたいだった。ホフマンを分析してるからというわけでもない。態度とか手つきがすごく批評…

週刊てのひら怪談に

ポプラビーチ「週刊てのひら怪談」(毎週火曜日更新)に昨日、拙作「青い花」という八百字怪談が掲載されています。無料なので読んでも損しませんよ。読んだら素晴らしいのでぜひ金を払いたくてたまらない、という人は今度カツカレー奢って下さい。なんか今…

陰謀論と小説

ディックとバロウズの共通しているところは陰謀論の作家という点だ。 そして陰謀論がおもしろいのはキチガイの論理だから。 肥大した自意識がかかえこんでしまった劣等感、を裏返しにするかたちで、自分を陥れようとしている巨大な陰謀の存在を夢見るのが陰…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その8回目)

「問題教師」貫井輝 八百字という短さは読者より書き手にとっていっそう“短い”のではないか。なんとなくそう思うんですが、たとえば私は短歌もつくるけど、短歌とくらべて二十倍以上の字数があるから書くのが楽かというと、全然そうではない。むしろ短歌より…

声で書く

読み始めてから少なくとも一年以上たつが未だに読み終えない本、が何冊かある。途中で投げ出してそのまま読んでない本ならいくらでもあるけど、たまに読んではすぐ中断し、しばらく放置してまた手に取る、ということを何度も繰り返している本はウィリアム・…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その7回目)

「怖いビデオ」崩木十弐 私が怪談に求めてやまないのは、単に恐怖とか不思議といった言葉では片付けることのできない、落しどころのない不安定な感情を惹き起こされることです。 そのためか、何も怖いことや不思議なことが起きないのに怪談としか言いようの…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その6回目)

「使命」水棲モスマン この作品が巧いと思ったのは、レストランの看板絵の取り扱い方です。牛がナイフとフォークを握って、同類の肉を前に笑顔を浮かべる絵。鳴き声に由来する、何のひねりもないだじゃれ台詞を書き込まれた、キッチュな看板絵。この絵をわれ…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その5回目)

「カミソリを踏む」朱雀門出 この作品は一人称の、ほぼ現在形だけで書かれています。 一人称の語りには“語る私”と“語られる私”という二人の私が発生することはわりとよく知られていますね。 選手と実況アナを一人で同時に務めるみたいな「私」の役割の分裂が…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その4回目)

「磯牡蠣」有井聡 この作品の魅力を一言でいうと「実話的な迫力」とでもいうべきものでしょうか。 西暦や固有名詞、バカ牡蠣という馴染みのない言葉などが説明無くいきなり並ぶ。怪異もその流れで当然のことのように描かれる。いちおう不思議な事件として語…

『てのひら怪談2』を1/10読みながら(その3回目)

三回目をやります。朝晩咳が止まらなくてつらいです。 「灯台」牧ゆうじ この作品、まず文章が好きです。文章にかぎっていえばこの本の中で一番好きかもしれない。 私は教養がないのでアホみたいなたとえになりますが、翻訳小説みたいですよね。○○文学、とい…