断片化日記

だいたいにおいて、自分の周りを壁で囲むと安心するので人は家に住むわけだが、まわりが何も見えないと不安だからせっかく囲んだ壁にわざわざ穴もあけるので、家には窓があるのである。 現代詩手帖を図書館に何冊か借りてくる。私は詩がてんでわからない。が…

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二個目のほうの短歌ブログで、超みじかい散文と短歌を合わせることを実験的にやっています。形としてはべつに珍しくないし自分でも昔つくってましたが(使ってた日記サイトが消えたので一緒に消えましたが)、小説とか短歌とか詩とかいうジャンル意識をぐら…

斜面を感じない

物語というのは斜面です。それは始まりから終りに向けて下り続けています。部分的に平坦だったり上り坂が含まれていたとしても、全体の下る力にそれは飲み込まれ、乗り越えられてしまうほどの例外にとどまります。 この斜面のうえに小説は書かれます。すべて…

小説は小説家が書くもの

小説を書いていていつも苦痛なのは、自分の書いているものが小説だとはどこか致命的なまでに信じきれないまま、信じたふりをして書き続けなければならないというところだ。 これは小説と呼ぶにはボーダー上にあるようなものを私が書いている(そうでありたい…

残雪の書き方

残雪『蒼老たる浮雲』(近藤直子訳)の訳者あとがきの中に「ある台湾の新聞(『中時晩報』一九八八年六月九日)のインタビュー記事」の一部が載っていてそれが残雪の具体的な執筆方法について触れていて興味深いだけでなく役に立ちそうなので引用しておく。 …

脳内都民として

あの人の脳内山谷にはあるのですから。 われわれ都民は脳内知事が現実の首都の知事も兼ねるという未曾有のスペクタクルをこそ味わうべきなのです。 現実の都民は、脳内知事の脳内都民にも自動的に二重登録されています。 知事の脳内鉄道である大江戸線は、現…

手加減なしの残雪

わたしの同僚の父親は火葬場の死体焼きだった。人生の大半を死体を焼いて過ごしてきたため、全身からそんなにおいがした。ある日、その家族はひそかにしめしあわせて、みんなで彼を置き去りにした。彼はひとり寂しく火葬場の墓地のはずれの小屋に住んでいた…

虫の小説

右肩から右ひじを経て右手中指にかけてが腱鞘炎的というか神経痛的に痛い。朝起きるたびにそれが酷かったり軽かったりする。そんなことはべつにどうでもよく、便所の床が最近べこべこして踏み抜きそうになってることが気がかりだが、腐ってるんだろうか。私…

人に伝わる言葉を話してはいけないこと

自分だけの崖っぷちに立つには「私だけが崖っぷちに立っている」という自覚とともに内陸を眺めるような態度は妨げになるのであって、ほかの「自分だけの崖っぷち」に立っている人々と個別に出会うことだけが私を私だけの崖っぷちに案内するだろう。 あなたの…

残雪「蒼老たる浮雲」より

老況(ラオコアン)は母親の怒りをひどく恐れていた。少しでも怒られると脅えてどうしようもなくなり、つらくてもう、生きていけないような気がした。その日の晩、老況(ラオコアン)は悪い夢を見た。寝ていたベッドをだれかが下から抜き取ってしまい、身体…

筒井康隆の幻想的な短編が読みたくて家から一番近いほうのブックオフに行ったら、以前より価格設定が上がってるような気がして気が滅入る。でも今は家から二番目に近いほうのでかいブックオフは休業中なので、こっちで買うしかない。となりのドラッグストア…

読んだ本

『隣之怪 蔵の中』木原浩勝 『映画の頭脳破壊』中原昌也 『怖い話はなぜモテる』平山夢明・稲川淳二 『恋とはどういうものかしら?』岡崎京子 『黄泥街』残雪 『隣之怪 蔵の中』を読んで、ここに収録されている怪談はそのまま口頭の語りに移しても(朗読とい…

下痢と雷

読んだ本。 『グチ文学 気に病む』いましろたかし 『「超」怖い話 怪歴』久田樹生 『ヨッパ谷への降下 自選ファンタジー傑作集』筒井康隆 『ゲゲゲの鬼太郎 吸血鬼エリート』水木しげる 『怪奇事件はなぜ起こるのか』小池壮彦 『本の森の狩人』筒井康隆 『魔…

自己ベスト

自己評価と、他者による評価はつねに食いちがい続けるものだろう。 これまで私の書いた八百字小説で自己評価が一番高いのは、今年の怪談大賞に出した中の一本「私の未来」である。私は怪談に、そこに何も書かれていないものの重量を静かにつたえる語りの軋み…

怪談とリアリティ

ビーケーワン怪談大賞の結果が出る。 http://blog.bk1.jp/kaidan/ 私の書いた「百合」も佳作に入っていた。 選考会レポートの中で、福澤徹三氏が怪談を取材する重要さを語っていた。私自身は取材をしないのであれだけど、怪談書く人はたとえ小説でも取材はし…

画面は誰かの鼻の穴

最近読んだ本。 『赤いヤッケの男』安曇潤平 『余は如何にして服部ヒロシとなりしか』あせごのまん 『懲戒の部屋 自選ホラー傑作集1』筒井康隆 『人造人間キカイダー』(1)〜(4) 石ノ森章太郎 オリンピックを全然見てないのはテレビを見ないからで、ほ…

紙に書いた物語、の自由

物語が現実にある家だとすれば、私が必要としているのは家の間取り図だけだ。かつてそこにいたことのある、或いはいつかそこに行くことになるかもしれない家の間取り図。そのようなものとしての物語にしか本当のところは関心が持てない。私が“掌編しか書けな…

意志のように不調

読んだ本。 『プロレスへの遺言状』ユセフ・トルコ 『真・都市伝説』呪みちる他 『コリドラー〜廊下者〜』(1)(2) サガノヘルマー 『ゲゲゲの鬼太郎〜地獄流し』水木しげる 『映画監督に著作権はない』フリッツ・ラング 『ゴダール革命』蓮實重彦 ○ ●機械は正…

透明さについて

三十代の十年間がひどく見通しのいい空白だったという印象を書いたが、この期間は私が学生や職業人としての所属をもたなかった初めての十年間(正確には二十七からの十三年)であり、またそれにともなう経済的困窮と膨大な退屈を埋め合わせるにふさわしい手…

不惑

今日から四十代である。びっくりだ。 三十代の十年はほとんど十年の体をなしてないというか、こんなものが十年なら、その七倍か八倍生きたところで小学生のけつに毛が生える程度のことしか起きないと思う。 それくらい軽くすることに腐心してきたから乗り切…

本の感想は基本書かない

読んだ本。 『極楽商売 聞き書き戦後性相史』下川耿史 『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』川上未映子 『人格障害をめぐる冒険』大泉実成 ● 私は飽きっぽいというか、興味をもった対象のどこに興味があったのかすぐ忘れるのだが、そのくせ腰が重…

鉈と私

昨日締切になったビーケーワン怪談大賞に今年も応募。全投稿作は下記URLで公開中。 http://blog.bk1.jp/kaidan/ 私が出したのは「百合」「バス旅行」「私の未来」の三作。 『てのひら怪談2』十作レビューの過程でかなり明確になってきた、自分の読みたい=…

世界の歪みの肯定

読んだ本。 『SLAVE OF LOVE』みうらじゅん 『ウェブ進化論』梅田望夫 『キリハラキリコ』紺野キリフキ 『波状言論S改』東浩紀編著 『「超」怖い話Μ』平山夢明編著 『文豪怪談傑作選 川端康成集 片腕』東雅夫編 『おぞましい二人』エドワード・ゴーリー 『…

三日に一度くらい来る朝、みたいな。

今度PCの電源切ったら、はたして二度と立ち上がるかどうかは神のみぞ知る。 というかなり末期的な状態にあるということをアリバイ的に書き残してみる。 しかし末期的だなーと思ってからすでに一年たったりしてるわけで、これもまた本当の終りにいたる長い道…

お知らせ

ビーケーワン怪談大賞関係の新しい本が最近二冊出ています。 『てのひら怪談 百怪繚乱篇』 http://www.bk1.jp/product/03003531 http://www.amazon.co.jp/dp/4591103870 『てのひら怪談(文庫版)』 http://www.bk1.jp/product/03005130 http://www.amazon.c…

軽薄な奇想の体力

読んだ本。 『ぼくがぼくであること』山中恒 『東京大学「80年代地下文化論」講義』宮沢章夫 『夢のなか、いまも』宮崎勤 『現代小説の方法』中上健次 『むかでろりん』遠藤徹 『むかでろりん』は今まで読んだ遠藤徹の本でいちばんよかった。収録作のいくつ…

ある偶然

読んだ本。 『嗤う日本の「ナショナリズム」』北田暁大 『はれときどきぶた』矢玉四郎 『月蝕書簡』寺山修司 『萌える日本文学』堀越英美 『はたらくカッパ』逆柱いみり 『〈子ども〉のための哲学』永井均 『事件巡礼 彼らの地獄 我らの砂漠』朝倉喬司・中村…

シンクロしなくなるだろう

最近読んだ本。 『ドアの向こうの秘密』三田村信行 『UFOとポストモダン』木原善彦 『短歌の友人』穂村弘 『小川未明童話集』小川未明 本格的な歌論も当たり前のように読み物として普遍的な面白さに仕上げる穂村弘の“ストーリーテラー”としての体力は、一…

パノラマ島など

最近読んだ本。 『悪役レスラーは笑う』森達也 『おとうさんがいっぱい』三田村信行 『オオカミのゆめ ぼくのゆめ』三田村信行 『パノラマ島綺譚』丸尾末広 『ゲーム的リアリズムの誕生』東浩紀 以前ディック本(『フィリップ・K・ディック・リポート』)に…

地獄という日常

ちょっと前に大岡昇平の「野火」を読んだ。 地獄のような戦場の体験、という決まり文句でも語れるだろう肺病やみの一兵士の体験する死屍累々の世界が描かれるのだけど、その地獄にはまた、地獄の底までこんな瑣末な日常の景色がしつこくつきまとうのかよと思…